街角で見かけるのは垂れ幕の「のれん」ですが、株式投資での「のれん」とは大きく意味が違っています。
会計知識として重要な用語で、M&Aを行う企業に対して投資をしようとする方は必ず知っていただきたいことです。つい最近ではRIZAPグループで非常に話題になりました。
のれん代とは
貸借対照表の勘定科目の一つで、求め方は「買収金額-純資産」になります。
以下の仮定データで話を進めていきます。
【A企業】
資 産:2,000億円
負 債:1,000億円
純資産:1,000億円(資産-負債)
このA企業をB企業が3,000億円で買収したとします。
3,000億円(買収金額)-1,000億円(A企業の純資産)=2,000億円
買収金額と純資産の差額の2,000億円が「のれん代」となります。
1,000億円の純資産しかないのに3,000億円も出す企業があるのか?という疑問が沸くと思います。
純資産は土地・建物・設備等から積算され、今回は1,000億円と仮定しました。
しかし、企業にはブランド力・技術力・社員のノウハウといった無形固定資産もあり、純資産に上乗せして評価されます。その額が「のれん代」です。
形に表せない・目に見えない価値。将来それ以上の利益を生み出すであろう期待価値として計上されるものです。
日本基準と国際基準
日本の会計基準では、のれん代を20年で償却しなければなりません。
今回のケースであれば2,000億円÷20年なので、毎年100億円の費用計上をする必要があります。しかし、100億円を計上すると財務に多大な影響を与えることから国際基準のIFRSに移行する企業も多くなってきました。
国際基準のIFRSを簡単に説明しますと、のれん代を償却しなくていいルールです。
100億円の費用計上しない分、財務上は良い数字が出せるようになります。
もちろんメリットだけではなく、毎年減損テストというのを実施しなければなりません。もしも事業収益が悪化し、のれん代に価値がない。と判断された場合、減損処理をします。
今回のケースでは、2,000億円の価値があると評価されていましたが、経営が立ち行かなくなり、売上高・営業利益・経常利益・当期純利益の減少が著しくなり、2,000億円の価値はない判断され、1,500億円に減損処理をした場合、単年で500億円の費用計上をしなければなりません。
これを一種の爆弾と表現している方もいます。
業績不振の上にさらに減損処理をするのですからダブルパンチです。市場への不安・株価の暴落は避けられないでしょう。
ある意味では事業の方向転換をすべきタイミングと考えられるケースでもあります。
負ののれん
今度は逆に、負ののれんを見ていきましょう。
先ほどのA企業の純資産は1,000億円でしたが、もしも買収金額が500億円だったらどうでしょうか?
500億円(買収金額)-1,000億円(A企業の純資産)=-500億円
1,000億円を500億円で購入したのですから、差額の500億円を「負ののれん」として利益計上することになります。
この手法で有名になったのがRIZAPグループです。
様々な企業を純資産より低い金額でM&Aをし続け、その差分を利益計上していきました。財務諸表上では利益が右肩上がりで、投資先としては大人気の企業へと変貌していきました。
しかしシナジー効果を生まない計画性のないM&Aを続けてしまったことから、徐々に化けの皮が剥がれていきました。
1,000億円の企業を500億円で買収しましたが、そもそも1,000億円の価値がなかったと評価されたらどうなるでしょうか?
500億円の価値しかない。とされた場合、負ののれんとして計上した利益を戻さなくてはなりません。つまり、500億円の費用計上をすることになります。
RIZAPグループが一気に急降下したのはこれが原因で、市場を揺るがす大赤字を計上いたしました。
M&A企業はより注意
M&Aを行うのは悪いことではありませんし、相乗効果が期待できるのであれば企業価値を高めるための素晴らしい手段です。
しかし、見境なくM&Aを繰り返し結局は減損処理をする。というのは市場から大バッシングを受けるのは必然です。
株式投資を行う際に、M&Aを率先して行っている企業に対してシナジー効果が生まれるのか?のれん代はどのようになっているのか?を注視していくことが求められますね。